昔の僕は典型的なお調子ノリの悪ガキだった。一丁前にガキ大将のようなことをやっていて、下級生の男子の子分まで従えていた。
当時、僕が学校終わりにいつも行っていた学童保育所には、阿澄先生というお姉さんがいた。お姉さんは黒髪の女子大生で、清楚でとても綺麗な人だった。悪ガキの僕は、ひそかにお姉さんに恋心のような憧れを抱いていた。
だが、素直でない年頃なので、いつもお姉さんに酷いことを言ってからかったりしていた。
平気でお姉さんに向かって「ブス!」「ブス!」といったり、おっぱいが大きいという理由で「牛女!」と呼んだりしていた。
お姉さんに怒られたり注意されたりするたびに、「やーいっ、妖怪、牛女が怒ったぞーっ!」とか、酷いことを言っていた。
いま思えば、年頃の女性に対して何てことを言っていたのだろうと思う。だが、子供というのはそういうものだ。
お姉さんブチ切れ
ある日、いつものようにお姉さんが「手を洗いなさい!」と注意したところ、僕は「うるせー、ブース! おっぱい女は黙ってろ!」と酷い悪口をいって反抗的な態度を取っていた。
「牛はモーモー言ってろー!」
我ながらよくそんな酷い悪口を次から次へと思いついたものだと感心してしまう。
お姉さんはいつもニコニコしていた。だが、内心、ずっとイライラしていたのだろう。この日、ついにお姉さんはブチ切れたのだ(当たり前)。
お姉さんは、何もいわずに無言で僕の両手を押さえると、体重をかけて馬乗りになった。僕は、子供心にも(あ….、やばい、お姉さん怒ってる….っ)とすぐに気づいた。
だが、僕はそう簡単に負けを認めたりしなかった。
「….や、やめろよっ、ブスっ!
降りろっ、牛女っ!重いんだよっ!」
と、相変わらず生意気すぎる口を利いていた。
お姉さんは僕の背中にどっかりと馬乗りになって体重をかけていた。女性とはいえ、相手は女子大生である。僕が暴れたり抵抗したくらいではビクともしない。僕は床にうつ伏せの体勢で組み伏せられていた。
お姉さんは静かな声で、しかし今までにはない怒りを含んだ威厳のある声でいった。
「いい? 誠君、
女の子に向かってそんな口の利き方しちゃダメなの。
何度も注意してるでしょ?
そういうこと言われたら女性は傷つくのよ?」
まったくの正論である。
だが、僕のようなバカなガキには無意味な説教だった。
「….う、うるせー、降りろっ、
重いんだよ、でっ、デブ、デブっ」
「はぁ….、もう、仕方ないわね」
そういうと、お姉さんは僕に馬乗りになったまま、いきなり僕の脇腹を掴んでモミモミとくすぐりはじめた。
「先生は体罰は絶対に反対なんだけど。
誠君みたいな何度いってもわからない子は、ちょっとお仕置きが必要ね」
そういって僕の左右の脇腹を掴んでくすぐりはじめたのだ。
「ぎゃーーーーっはっはっははははははっーーーはははははははっはははははははっーーーー、あーっはっははっははっ、あーーーあっははははははははははっ」
僕は何がおこったのかわからなかった。ただ強烈なくすぐったさと息苦しさに襲われた。
僕は大声で素っ頓狂に笑いながら、必死にカラダを捩って逃げようとした。お姉さんの体重から抜け出そうとした。
「だーめ、
逃がさないわよ」
お姉さんはそういうと、僕に馬乗りになったまま、足でガッチリ僕のカラダを左右から挟み込んだ。そして、よりどっしりと体重をかけて座り直したのだ。
本当にビクともしなかった。
もちろん、脇腹をくすぐる手は一瞬も止まらない。
「ぎゃははははっ、ぎゃーーーーっはっはっははははははっー、ひぃーっひひひっひっひひひひひひっ、やめっ、やめろーーはははははははっはははははははっーーーー、あーっはっははっははっ、やめっ、やめろあーーーあっははははははははははっ」
くすぐりがこんなに苦しいものだとは夢にも思わなかった。
もちろん、今までも遊びで母親にくすぐられたり、友達にくすぐられたりしたことはある。しかしそれはあくまでただの遊びである。
「お仕置き」としてくすぐられたり、相手を苦しませる意図をもってくすぐられたのは初めての経験だった。
そしてお姉さんのくすぐりは抜群にうまかった。
「ぎゃーーーーっはっはっははははははっーーー、やめでっ、やめでぇぇえーーーーっはははははははっはははははははっーーーー、あーっはっははっははっ、あーーーあっははははははははははっ」
お姉さんはピアノの先生もやっていたので、指遣いが絶妙にうまかった。
「違うでしょ? 誠くん、
『やめて』の前にお姉さんに言うことがあるんじゃないの?」
お姉さんの細長い指には、1本1本にしっかりと筋肉があり、それが別々の生き物のように自由自在に動き回り、僕の脇腹に食い込んだ。
お姉さんの指は、僕の弱点のツボを探すように縦横無尽に動き回った。そして、僕の笑い声がひときわ大きくなる箇所を発見すると、そこにしっかりと適確に指を食いこませ、執拗にくすぐった。
「お姉さんが何度も誠君に、
『酷いこというのやめて』って言ったよね?
そのとき、誠くんはやめてくれたっけ?」
そういって遠慮なく僕の脇腹をグリグリと揉み続けた。
僕は肺の息をすべて吐き出すまで笑わされた。
お姉さんの背中の体重の圧迫感が、さらに息苦しさに拍車をかけた。
(くすぐったいくすぐったいくすぐったいくすぐったいくすぐったいくすぐったいくすぐったいくすぐったい)
僕は生まれてはじめて、くすぐった過ぎて涙が出る、という感覚を味わった。口からは狂ったように笑い声が飛び出し、視界は涙でぼやけた。気付いたら、ひーひーと笑いながら泣いていた。
「ぎゃーーーーっはっはっははははははっーーー、やめでっ、やめでぇぇえーーーーっ、ごめんなさいーーーっ、はははっ、はーっはははははははっはははははははっーーー、お姉さんっ、お姉さんやめでーーぇぇぇっ、あーっはっははっははっ、あーーーあっははははははははははっ」
逃げだしたくてもビクともしない。僕の意思とは関係なく、遠慮なく脇腹に送り込まれ続ける強烈なくすぐったさの刺激。
そのうち、お姉さんの指が僕の本当の弱点のツボを捉えた。多分、脇腹と腰骨のあいだくらいのツボだったと思う。
「だぁぁぁぁー―ーーーーーーはっはっはっはっはっはっ、いやいやいやいやぁぁーっははっははっははははっはははははははっ」
「ふーん、ここがいいのね?(笑)」
僕は本当に死ぬかと思った。
このまま逃げられずに、その脇腹のツボをぐりぐりされ続けたら、絶対に気がおかしくなると思った。逃げられない状態でくすぐられ続ける恐怖感をはじめて感じた。
一方、お姉さんはそこまで僕が苦しんでいたとは、多分、気づいてなかったと思う。
自分のくすぐりの上手さにも多分、気づいていなかった。単純に、普段は生意気な僕がゲラゲラ笑っているのを見て、お仕置きが楽しくなってきた様子だった。
子どもにはちょうどいいお仕置きだ、というくらいにしか思ってなかったと思う。
だが、僕にしたら叩かれる方がよほど楽だったと思う。それくらいお姉さんの指によるコチョコチョはきつかった。
「はぁぁぁーーーっはっはっはっははははっはっはっ、ちがっ、違いますーっははははっ、やだぁーーーっはっはっはっはっはははっはははっ、むりっ、死んじゃうっーっはははっはっはっははははっ」
「ごめっ、ごめんなさいっ、あー--ーははははっはっはっはっははっっ、せっ、先生ーーっ、ごめんなさいーっはっははははははっははははっ」
僕は1秒でも早く許してほしくて、泣きながら何度もごめんなさいと謝った。
お姉さんのSモード
お姉さんは僕をくすぐってお仕置きしているうちに、普段は見せないSっぽい一面が出てきたようだった。
「ふーん、でも誠くんは本当に悪いと思ってるのかなぁ?
コチョコチョやめて欲しくて言ってるだけじゃないのー?(笑)」
「ぎゃーーーーっはっはっははははははっーーー、ちがっ、違いばずーっはっはっはっはははははっはははははははははっ、は、反省じでまずっ、ごめんなさいーはっはははははっはははははっはははっ」
僕が泣きながらカラダを捩って、お姉さんの馬乗りから抜き出そうとするたびに、お姉さんは僕の足首を掴んであっさりと元の位置まで引きずり戻した。そして、また背中にしっかりと体重をかけて座り直し、コチョコチョを続行した。
「こーら、どこ行くの?
まだお姉さんがお話してる途中でしょ?」
「はーっはっはははははっははっ、はーっははっ、もう許じでっ、許してぐだざいーっはっははははっはっ、も、もう絶対っ、悪口言いまばぜんーっはっはははっははははっはっ」
時間にすると多分、10分ほどの出来事だったと思う。
だが、僕には本当に永遠に続く終わりのない拷問のようだった。
密着くすぐり
僕があまりに何度も逃げようとするので、お姉さんは、僕に上からギュッと抱きつくようにして覆いかぶさって密着した。これで本当に逃げられなくなった。
お姉さんの吐息が僕の顔にかかる。背中におっぱいが強くあたるのを感じたが、当時の僕は、逃げれない恐怖感からそれどころではなかった。
「ふふふ、これで逃げれないね(笑)」
そしてお姉さんは、その体勢のまま、再び脇腹をくすぐりはじめた。
「ぎゃーーーーっはっはっははははははっーーー、ごめんなさいーはっはははははっはははっ、ごめんなさいーはっはははははっはははっ、ごめんなさいーはっはははははっはははっ」
このときのお姉さんは今まで見たことのないくらい意地悪だった。
今までの侮辱的な悪口の仕返しだったのか、お姉さんなりの教育的な指導だったのか、それともくすぐってるうちに男の子をイジメるのが楽しくなってしまったのか、今となってはお姉さんの真意はわからない。
お姉さんは、密着して僕をくすぐりながら、耳元で囁くように言葉責めをした。
「ふふふ、コチョコチョ嫌なら逃げてもいいんだよ?
男の子なんだから逃げられるでしょ?(笑)」
「それとも、誠君は男の子なのに女の人に
力で負けちゃうの? 恥ずかしいねー(笑)」
「ほら、男の子なんだから頑張って?
ほーら、こちょこちょこちょこちょ」
泣きながら必死に逃げようとするも、お姉さんは全く力を緩めてくれる気配はない。
「ぎゃーーーーっはっはっははははははっーーー、やめでっ、ごめんなさいーはっはははははっはははっ、くすぐりっ、やめでーーぇぇぇっはははははははははははっ」
このときの強烈な恥ずかしさは今も覚えている。
体温が上昇し、顔が真っ赤になり、頬が火照る。
(男の子が女の人に負けるのは、恥ずかしいことなんだ)
僕はそのときはじめてこのことを強烈に意識した。
それまでそんなことを意識したり、考えたこともなかった。
いま思えば、これが僕がこの先の人生でずっとMに目覚めるキッカケだったと思う。
お姉さんは、強烈なくすぐったさと同時に、僕にM気質を植え付けたのだった。
「ふふ、
許して欲しかったら、ちゃんと『僕は女の子より弱いです、もう絶対に女の子には逆らいません』って言ってごらん?」
「はぁぁーーーーっはっははははっはははははははっ、ぼ、僕はっ、女の子よりっ、弱いでずーっはははははっははははっはははっ」
「も、もう絶対にっ、ははははははははははっ、女の子にはーっはははっ、逆らいばぜんーっはっはははっははははっは」
これを年頃の男の子が言わされるのは相当な屈辱だった。
「よくできました。
いい?もう反抗的な態度とっちゃダメよ? わかった?」
「ぎゃーーーーっはっはっははははははっーーー、わがりまじだっはーはっはははははっはははっ、許じでくだざいーっはははははははははははっはははっはははっはははっ」
「先生に対してだけじゃないわよ?
今度、女の子に生意気な態度とってるのを見かけたら、先生、また誠君のこと泣くまでコチョコチョするからね?」
「ひぃーっひひひっひっひひひひひひっ、はいっ、はいっ、わがりまじだっーっはっはっはっはははははっはははははははははっ、はははーーはっはっはははははははははっ、もうやべでよぉーっはははははっはははは」
こうして僕は、二度と女の子に対して悪口をいったり、汚い言葉遣いをしないことをお姉さんに約束させられた。
それ以来、2度とお姉さんにくすぐられることはなかった。僕は女性にくすぐられるという性癖に目覚めたが、あのときほどくすぐったい経験をさせてくれる女性には、その後も出会ったことがない。